1905-1915年代

3-1. 色・形・視点を解体する前衛絵画

フォーヴィスム、表現主義、キュビスム、未来派、シュプレマティスムを扱います。見たものを写す絵画から、色、形、視点、速度、抽象そのものを主題にする表現へ移る前半の前衛です。

このページで見ておく3つのポイント
  • 色を現実から切り離す
  • 視点と形を分解する
  • 速度と抽象が主題になる
3-1. 色・形・視点を解体する前衛絵画の象徴的な参考画像
画像1: The City Rises / Umberto Boccioni(ウンベルト・ボッチョーニ) / Wikimedia Commons
出典

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Fauvism フォーヴィスム(野獣派)

フォーヴィスム(野獣派)って何?

20世紀初頭のフランスで、自然の色から離れた強烈な色彩を使い、感情や画面の力を前面に出した絵画潮流です。短期間ながら、色を主役にする近代表現の転換点になりました。

時代・潮流
1905-1910頃
1905年のサロン・ドートンヌでFauvesと呼ばれ、強い色彩表現が1900年代後半に集中したため、ここでは「1905-1910頃」とした。
Fauvism フォーヴィスム の参考画像
画像1: Woman with a Hat / Henri Matisse(アンリ・マティス) / パブリックドメイン
出典

Henri Matisse(アンリ・マティス)の《Woman with a Hat》は、肖像画でありながら肌や帽子を自然な色ではなく、緑、橙、青、紫の強い色面で組み立てています。フォーヴィスムでは、色は対象を正確に再現するための補助ではなく、感情、リズム、画面の強度を作る主役になります。1905年のサロン・ドートンヌで「野獣」と呼ばれた衝撃は、この色彩の自立にありました。

デザインの特徴
純色、荒い筆触、単純化された形、感情的な色。
代表的な人物・作家・参照文化
Fauvism フォーヴィスム 画像2
画像2: Open Window, Collioure / Henri Matisse(アンリ・マティス) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
出典

Henri Matisse(アンリ・マティス)の《Open Window, Collioure》は、窓、海、室内を自然な光景として整えるのではなく、赤、緑、青、紫の強い色面で構成しています。フォーヴィスムでは、色は現実をなぞるものではなく、画面全体のリズムと感情を作る要素になります。

Fauvism フォーヴィスム 画像3
画像3: The Seine at Chatou / Maurice de Vlaminck(モーリス・ド・ヴラマンク) / Metropolitan Museum of Art via Wikipedia / パブリックドメイン
出典

Maurice de Vlaminck(モーリス・ド・ヴラマンク)の《The Seine at Chatou》は、セーヌ川沿いの風景を、自然な空気遠近ではなく、赤、青、緑、黄の強い筆触で押し出しています。マティスだけでなくヴラマンクを入れることで、フォーヴィスムが個人の肖像表現だけではなく、郊外の風景や水面を激しい色彩の場へ変えた運動だったことが見えます。

Fauvism フォーヴィスム 画像4
画像4: The Turning Road, L'Estaque / Andre Derain(アンドレ・ドラン) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
出典

Andre Derain(アンドレ・ドラン)の《The Turning Road, L'Estaque》は、風景を黄、橙、赤、緑の高彩度な色で組み立てています。自然の再現よりも、曲がる道や木々の形を大胆な色のまとまりとして見せることで、風景画を感情的な構成へ変えています。

Fauvism フォーヴィスム 画像5
画像5: Charing Cross Bridge / Andre Derain(アンドレ・ドラン) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
出典

Andre Derain(アンドレ・ドラン)の《Charing Cross Bridge》は、ロンドンの橋と川を、実際の天候や空気感から離れた明るい色で表しています。都市風景を写実ではなく色彩の実験として扱うことで、近代都市の印象を強い視覚リズムに変えています。

文房具カフェの視点

フォーヴィスムは、空や植物、人間の肌まで、写実的な色で塗ることをやめました。ざっくり言えば、みんなにどのように見えているかではなく、ポスト印象派の流れにある「オレにはこう見えている」あるいは「オレはこう感じる」という色の置き方です。色彩には見た目だけではなく、身体や皮膚で感じる「感じ」がある。色彩を普遍的な視覚の反応から、より多義的で自由な存在へと拡張した、とも言えますね。

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フォーヴィスム(野獣派)への批判・対抗意識から次の潮流へ

フォーヴィスムは色彩を解放しましたが、当時は乱暴で野蛮な色使いとして批判されました。その衝撃は、色が現実再現の補助ではなく感情や構成の主役になるという考えを広げ、表現主義や抽象絵画へつながります。

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Expressionism / German Expressionism 表現主義・ドイツ表現主義

表現主義・ドイツ表現主義って何?

不安、孤独、都市の緊張など、外の世界より内面の感情を強く表す表現です。特にドイツ表現主義では、鋭い線、歪んだ人物、強い明暗で近代社会の不穏さを可視化しました。

時代・潮流
1905-1920年代
1905年のDie Brucke結成以降、ドイツを中心に内面や社会不安を歪んだ形で示す表現が広がったため、ここでは「1905-1920年代」とした。
Expressionism / German Expressionism 表現主義・ドイツ表現主義 の参考画像
画像1: Street, Dresden / Ernst Ludwig Kirchner(エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー) / パブリックドメイン
出典

キルヒナーの《Street, Dresden》は、都市の群衆を写実的に整えるのではなく、歪んだ人物、鋭い輪郭、不安定な色面で表しています。表現主義では、外界をそのまま描くよりも、都市の緊張、内面の不安、社会の圧迫感を、線や色の強さに変換することが重要になります。

デザインの特徴
歪んだ形、木版画的な線、強い明暗、鋭い人物像。
代表的な人物・作家・参照文化
Expressionism / German Expressionism 表現主義・ドイツ表現主義 画像2
画像2: The Mothers (Die Mütter) / Käthe Kollwitz(ケーテ・コルヴィッツ) / Metropolitan Museum of Art via Wikimedia Commons / CC0 1.0
出典 / ライセンス

Käthe Kollwitz(ケーテ・コルヴィッツ)の《The Mothers》は、戦争に子どもを奪われまいとする母たちの身体を、黒い木版の塊として押し固めた作品です。表現主義をムンク的な孤独や叫びだけで捉えるのではなく、印刷、木版、反戦、社会的な痛みとして見るために重要です。鋭い線と重い黒は、内面の不安を個人心理ではなく共同体の圧力として示しています。

Expressionism / German Expressionism 表現主義・ドイツ表現主義 画像3
画像3: Blue Horse I / Franz Marc(フランツ・マルク) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
出典

Franz Marc(フランツ・マルク)の《Blue Horse I》は、馬を自然な色ではなく青で描き、動物に精神性や象徴性を持たせています。表現主義では、色や形は目に見える現実の再現ではなく、内面や理念を直接伝えるための手段になります。

Expressionism / German Expressionism 表現主義・ドイツ表現主義 画像4
画像4: Composition VII / Wassily Kandinsky(ワシリー・カンディンスキー) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
出典

Wassily Kandinsky(ワシリー・カンディンスキー)の《Composition VII》は、具体的な対象をほとんど離れ、色、線、形の衝突だけで画面を作っています。表現主義が持つ内面性は、ここでは抽象表現へ向かい、音楽のようなリズムや精神的な振動として扱われています。

Expressionism / German Expressionism 表現主義・ドイツ表現主義 画像5
画像5: Two Women on the Street / Ernst Ludwig Kirchner(エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
出典

キルヒナーの《Two Women on the Street》は、都市の人物を細く鋭い形と強い色で描いています。街の華やかさよりも、近代都市にある緊張、不安、孤立感が前面に出ている点が、ドイツ表現主義らしい特徴です。

文房具カフェの視点

表現主義では、線や色がきれいに整うことよりも、不安や怒り、孤独の感覚を伝えることが大切でした。木版画のような強い線や荒い筆触は、画材が作家の身体の動きや心の揺れをそのまま受け止めているように見えます。中でも、カンディンスキーは表現主義の枠には収まらず、同時代のキュビスムなどと交差しながら、現代まで続く抽象表現に向かっていくことになります。

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表現主義・ドイツ表現主義への批判・対抗意識から次の潮流へ

表現主義は内面や不安を強く示す一方、歪みや暗さが過剰で主観的すぎると見られることもありました。その反動として、キュビスムや構成主義のように、感情より構造や社会的機能を重視する動きが強まります。

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Cubism キュビスム

キュビスムって何?

ものを一つの視点から写すのではなく、複数の角度から分解し、画面の中で再構成する近代美術の潮流です。形を面や幾何学へ置き換える考え方が、後のグラフィックや抽象表現に影響しました。

時代・潮流
1907-1914
Picasso《Les Demoiselles d'Avignon》前後の1907年から第一次世界大戦前まで、複数視点と分解構成が集中的に展開したため、ここでは「1907-1914」とした。
Cubism キュビスム の参考画像
画像1: Portrait of Pablo Picasso(パブロ・ピカソ) / Juan Gris(フアン・グリス) / パブリックドメイン
出典

Juan Gris(フアン・グリス)の《Portrait of Pablo Picasso(パブロ・ピカソ)》は、人物を一つの視点から自然に描くのではなく、顔、身体、背景、文字的な構成要素を幾何学的な面へ分解し、再構成しています。キュビスムでは、対象を見たまま写すのではなく、複数の視点、時間、構造を一つの画面に折りたたむ発想が、後のレイアウトや抽象構成にもつながります。

デザインの特徴
幾何学的分割、複数視点、コラージュ、抑えた色。
代表的な人物・作家・参照文化
  • Pablo Picasso スペイン・フランス / 1881-1973
    Les Demoiselles d'Avignon
  • Georges Braque フランス / 1882-1963
    Violin and Candlestick
  • Juan Gris スペイン・フランス / 1887-1927
    Portrait of Pablo Picasso
Cubism キュビスム 画像2
画像2: Les Demoiselles d'Avignon / Pablo Picasso(パブロ・ピカソ) / Wikimedia Commons
出典

Pablo Picasso(パブロ・ピカソ)の《Les Demoiselles d'Avignon》は、人物の身体や顔を滑らかに描かず、硬い面と複数の視点で分解しています。キュビスムの出発点として、対象を一つの視点から見るという絵画の前提を崩した作品です。

Cubism キュビスム 画像3
画像3: Le Chemin, Paysage à Meudon / Albert Gleizes(アルベール・グレーズ) / Wikimedia Commons / Christie's / パブリックドメイン
出典

Albert Gleizesの《Le Chemin, Paysage à Meudon》は、風景を遠近法で奥へ見せるのではなく、木、道、建物、空間を重なる面と量塊として組み立てています。人物画だけでなく風景画でも、対象を構造へ分解し再構成するキュビスムの考え方が確認できます。

Cubism キュビスム 画像4
画像4: Still Life with Checked Tablecloth / Juan Gris(フアン・グリス) / Wikimedia Commons / The Metropolitan Museum of Art / パブリックドメイン
出典

Juan Gris(フアン・グリス)の《Still Life with Checked Tablecloth》は、新聞、瓶、果物、テーブルクロスなどの静物を、平面化された色面と記号的な断片で構成しています。分析的な分解だけでなく、文字や模様、素材感を貼り合わせるように再構成する合成的キュビスムの理解に役立ちます。

Cubism キュビスム 画像5
画像5: Violin and Candlestick / Georges Braque(ジョルジュ・ブラック) / San Francisco Museum of Modern Art via Wikipedia
出典

Georges Braque(ジョルジュ・ブラック)の《Violin and Candlestick》は、楽器、燭台、テーブルの奥行きを一つの視点から描くのではなく、細かい面と複数の角度へ分解しています。静物を分析的にほどいて再構成する構図から、キュビスムの中核である「見る視点の分解」がより明確に伝わります。

文房具カフェの視点

キュビスムは、ものを一方向から見るのではなく、いくつもの視点に分解して紙の上で組み直しました。完成した絵というより、考えながら構造を探している紙面の面白さがあります。ある意味、人や物を見る人間の視点、そのプロセスそのものを描いているとも言えます。アート史という文脈の中でいうと、このキュビスムあたりから、絵画そのものが直感的にわからなくなる人がとても多いです。美しいと感じる、癒されるといったことが絵画の価値なのではないか?と、ある種無意識に思っている人たちにとっては、正直何がいいのかわからないとなりがちですね。

つまり、絵画とはこういうものだろう、アートとはこういうものだろうという常識を疑うこと、あるいは拒絶して新たな表現を生むことに、この時代のアーティストたちの情熱が向かっていたのだと思います。

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キュビスムへの批判・対抗意識から次の潮流へ

キュビスムは視点を分解する画期的な方法でしたが、難解で日常から遠い抽象に見える批判もありました。それでも、画面を構造として組み立てる発想は、構成主義、デ・ステイル、モダンなレイアウトの基礎になりました。

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Futurism 未来派

未来派って何?

20世紀初頭のイタリアで、速度、機械、都市、運動を称揚した前衛運動です。斜めの文字、反復する形、動きの表現によって、静かな画面ではなく加速する近代の感覚を表しました。

時代・潮流
1909-1910年代
1909年の未来派宣言を起点に、速度・機械・都市を称揚する芸術運動が1910年代に展開したため、ここでは「1909-1910年代」とした。
Futurism 未来派 の参考画像
画像1: Unique Forms of Continuity in Space / Umberto Boccioni(ウンベルト・ボッチョーニ)、撮影 Wmpearl / パブリックドメイン / PD-self photograph
出典

ボッチョーニの《Unique Forms of Continuity in Space》は、人体を静止した彫刻ではなく、前へ進む力、空気抵抗、速度の連続として表した作品です。未来派では、機械、都市、速度、騒音、運動が新しい時代の感覚として称揚され、文字や形も止まった構成ではなく、動きの痕跡として扱われます。

デザインの特徴
斜め、反復、速度線、動く文字、機械的リズム。
代表的な人物・作家・参照文化
Futurism 未来派 画像2
画像2: Sintesi Futurista della Guerra / Filippo Tommaso Marinetti(フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ) and Futurists(フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティと未来派) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
出典

Filippo Tommaso Marinetti(フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ)らによる《Sintesi Futurista della Guerra》は、文字や図形を静かな説明ではなく、速度と衝突の図式として使っています。未来派の視覚言語は、機械、戦争、都市の力を称揚した問題含みの文脈を持ちますが、タイポグラフィを運動として扱った点は重要です。

Futurism 未来派 画像3
画像3: The Revolt / Luigi Russolo(ルイージ・ルッソロ) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
出典

Luigi Russolo(ルイージ・ルッソロ)の《The Revolt》は、赤い斜線と群衆の動きを重ね、都市の反乱をエネルギーの流れとして表しています。未来派では、対象の形そのものよりも、速度、力、衝突が画面の主題になります。

Futurism 未来派 画像4
画像4: Lightning / Luigi Russolo(ルイージ・ルッソロ) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
出典

Luigi Russolo(ルイージ・ルッソロ)の《Lightning》は、光や電気の瞬間的な力を、鋭い形と反復する線で表しています。自然現象を静かな風景としてではなく、都市化・機械化時代のスピード感として捉えるところに未来派らしさがあります。

Futurism 未来派 画像5
画像5: Dynamism of a Dog on a Leash / Giacomo Balla(ジャコモ・バッラ) / Albright-Knox Art Gallery via Wikipedia
出典

Giacomo Balla(ジャコモ・バッラ)の《Dynamism of a Dog on a Leash》は、犬の足、尻尾、リード、人の足を反復させ、歩く動作そのものを画面化しています。ボッチョーニの彫刻だけでは未来派が英雄的な機械身体に寄って見えますが、バッラを入れると、日常の小さな動きまで速度と連続写真の感覚で捉え直したことが分かります。

文房具カフェの視点

未来派は、機械、都市、スピード、騒音のようなものを絵や文字で表そうとしました。止まっている紙の上に、動きや音をどう残すかという実験でもあります。文字を斜めに走らせたり、反復させたりする感覚は、今のチラシやロゴの勢いにもつながりますね。これはあくまでも私見ですが、ボッチョーニの彫刻には縄文土器に見られるようなプリミティブな運動性が感じられます。「なんだこれは!」と思わせる火炎土器の、あの力強い造形。

あの造形は、未来派が目の当たりにした都市や機械のスピードといった大きなカルチャーショックのようなものが、縄文人たちにもあったのではないかと想像してしまいます。

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未来派への批判・対抗意識から次の潮流へ

未来派は速度や機械を称揚しましたが、戦争賛美や暴力性を含む歴史的問題を抱えています。その危うさを踏まえることで、機械美や動的タイポグラフィを、後の構成主義やSF的視覚表現と批判的に接続できます。

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Suprematism シュプレマティスム

シュプレマティスムって何?

対象を描くことから離れ、正方形、円、十字などの純粋な形と色で感覚や精神性を表そうとしたロシア・アヴァンギャルドの抽象表現です。余白と幾何学そのものが主役になります。

時代・潮流
1910年代-1920年代
Malevichが1910年代に非対象の幾何学抽象を提示し、ロシア・アヴァンギャルドの中で展開したため、ここでは「1910年代-1920年代」とした。
Suprematism シュプレマティスム の参考画像
画像1: Supremus No. 58: Yellow and Black / Kazimir Malevich(カジミール・マレーヴィチ)、撮影 Sailko / CC BY-SA 3.0
出典

マレーヴィチのシュプレマティスム作品は、人物や風景の再現から離れ、正方形、円、十字、矩形といった基本形だけで感覚や空間を成立させようとします。白地に浮遊する形は、デザイン上では余白、抽象記号、構成の緊張を考えるための重要な参照点になります。

デザインの特徴
正方形、円、十字、白場、浮遊するような単純図形。
代表的な人物・作家・参照文化
Suprematism シュプレマティスム 画像2
画像2: Stroyuschiysya dom (House under construction) / Kazimir Malevich(カジミール・マレーヴィチ) / Wikimedia Commons / Google Art Project / National Gallery of Australia / Public Domain Mark 1.0
出典 / ライセンス

建設中の家という題名を残しながら、画面は現実の建物描写から離れ、細長い色面や矩形の関係へと変換されています。具体物を出発点にしつつ、対象を純粋な形と色の構成へ解体していく、シュプレマティスム移行期の特徴が見える作品です。

Suprematism シュプレマティスム 画像3
画像3: Painterly Realism of a Football Player - Color Masses in the 4th Dimension / Kazimir Malevich(カジミール・マレーヴィチ) / Wikimedia Commons / Google Art Project / Art Institute of Chicago / Public Domain Mark 1.0
出典 / ライセンス

サッカー選手という主題は題名に残るものの、画面上では身体や運動が色面の衝突、浮遊する矩形、斜めの力へ置き換えられています。物語や写実よりも、速度、空間、感覚を抽象的な形の配置で表す点がシュプレマティスムの核です。

Suprematism シュプレマティスム 画像4
画像4: Decorative Composition / Olga Rozanova(オリガ・ロザノワ) / MOMus - Museum of Modern Art - Costakis Collection / SearchCulture.gr / CC BY-SA 4.0
出典 / ライセンス

ロザノワの色彩感覚が強く出た作品で、散らばる幾何学形態が画面全体を組織しています。マレーヴィチ的な白地と幾何形態の緊張に加え、装飾・工芸・紙上作品へ広がるロシア・アヴァンギャルドの応用的な側面も読み取れます。

Suprematism シュプレマティスム 画像5
画像5: Painterly Architectonic / Lyubov Popova(リュボーフィ・ポポーワ) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
出典

Lyubov Popova(リュボーフィ・ポポーワ)の《Painterly Architectonic》は、斜めに重なる色面を、画面の中で建築的な構造として組み立てています。マレーヴィチだけに寄せず、ポポーワを加えることで、シュプレマティスムが精神的な白い極限だけではなく、構成、素材感、のちの構成主義へ向かう空間設計の感覚も持っていたことが伝わります。

文房具カフェの視点

シュプレマティスムは、ものの形を描くことから離れて、四角、円、十字、白い余白のような最小限の形で画面を作りました。文房具でいえば、定規で引いた線や、スクラップを貼る位置や面積、余白の取り方だけで、どこまで強い表現ができるかを試しているように見えます。今回取り上げた作品の説明にもありましたが20世紀初頭から「作品タイトル」と「作品」との関係がかなり意識的に扱われるようになります。極端な例では、「無関係なタイトル」をつけることで、作品自体の存在を再定義しようとする動きです。この流れは、後のダダやシュルレアリスムにおいて、より実験的に行われるようになっていきます。

次の章へ進む視点

シュプレマティスムへの批判・対抗意識から次の潮流へ

シュプレマティスムは対象を極限まで抽象化しましたが、一般の鑑賞者には意味を読み取りにくいという弱点もありました。その抽象性は、デ・ステイルやミニマリズムのように、形そのものの秩序を追求する流れへ受け継がれます。